家・職場・学校の建物の新築・リフォーム、職業上(美容師、ネイリスト、大工、ペンキ屋、病理検査技師など)の反復曝露、農薬散布、産業廃棄物、職場のタバコの煙、床下のシロアリ駆除、工場の煤煙・排気ガスによる大気汚染などさまざまな揮発性化学物質の急性あるいは慢性の曝露により頭痛、全身倦怠感、不眠、健忘、イライラなど何となく体の不調が続いている人が増えています。
これといった特徴のないありがちな症状のため、ほとんどが見逃されています。アメリカでは10人に1人はCSといわれています。あなたの体の不調ももしかしたら、化学物質が原因かも知れません。
化学物質過敏症とは? (Chemical sensitivity:CS)
「かなり大量の化学物質に接触した後、または微量な化学物質に持続的に接触した後に、同じ化学物質に再接触した場合に出てくる不愉快な症状」(Cullen、エール大教授)が化学物質過敏症であると定義されています。
最初は1種類の化学物質に反応していただけなのが、途中から非常に多種類の化学物質に反応するように変化することがあります。
これは多種類化学物質過敏症(Multiple chemical sensitivity:MCS)といわれます。
化学物質過敏症の症状
軽症の場合には、体の疲れや風邪、また女性であれば、更年期障害などとの鑑別が難しい場合が多くあります。
自律神経失調症や心身症などを疑う前に、患者自身もひょっとしたら化学物質過敏症かもしれないと疑うことや、医療関係者もCSの可能性を念頭に置いて診療することが早期発見に重要です。
- 自律神経症状
- 発汗異常、手足の冷え、疲れやすい、めまい、ふらつき、振戦
- 神経・精神症状
- 不眠などの睡眠障害、不安感、うつ状態、頭痛、思考力低下、記憶力低下、集中力低下、意欲の低下、易怒性、興奮性、攻撃性。落ち着きがない。運動機能障害、四肢末端の知覚障害、関節痛、筋肉痛、筋力低下、起立性調節障害
- 気道症状
- のどの痛み、鼻の痛み、気道の乾燥感、気道の閉塞感、風邪をひきやすい、呼吸困難
- 消化器症状
- 下痢、特に便秘、悪心、嘔吐、腹痛、食欲不振、過食
- 感覚器症状
- 目の刺激感、羞明(まぶしい)、目の疲れ、ピントが合わない、視力低下、鼻の刺激感、匂いに敏感になる、味覚異常、音に敏感になる、鼻血、皮下出血
- 循環器症状
- 動悸(心悸亢進)、不整脈、胸部痛、胸壁痛、高血圧
- 免疫症状
- 皮膚炎、蕁麻疹、喘息、自己免疫疾患、鼻炎、花粉症、発熱、リンパ節腫張
- 泌尿生殖器・婦人疾患
- 生理不順、不正性器出血、月経前困難症、頻尿、乏尿、排尿困難、尿失禁、膀胱炎
診断
他の疾患を除外する必要があります。
1.詳細な問診が重要です。
出生地、両親の職業、転居歴、各自宅家屋の状況、家族の喫煙歴、暖房の種類、殺虫剤・有機溶剤など化学薬品の使用状況、職歴、各職場の環境、各学校の環境、趣味・嗜好、手術歴、妊娠歴、発症の時期、病気の期間などを中心に詳しく調べ、症状の出現した時期の前後については特に焦点を当てて発症原因を突き止めます。
2.症状
症状が多彩で多いのが特徴です(上記の化学物質過敏症の症状の項目を参照)。
多臓器に及ぶ(特に神経系)、症状の重さが変動する、症状の日内変動(日誌をつける)、仕事中に症状が変化する、週末や休暇中の症状の変化、シックハウス症候群などでは原因物質のあるところを離れると症状が軽減することが多い、ペットに同様の病気、他の家族が同時に病気になっていないか、職場の同僚が同時に病気になっていないか、多種の薬剤アレルギー、アルコール・食物不耐症(依存症)、ニコチン依存、カフェイン依存、好きなあるいは嫌いな特定のにおい、レイノー現象、しもやけ、点状出血、打撲痕(紫斑)、皮膚の黄色調“chemical yellow”
3.検査
血液検査は正常のことが多いです。
ヘルパーT細胞/サプレッサーT細胞、自己抗体、眼科検査(診断基準参照)、自律神経機能検査
診断基準 (他の慢性疾患が除外されていることが大前提)
A主症状
- 持続あるいは反復する頭痛
- 筋肉痛あるいは筋肉の不快感
- 持続する倦怠感、疲労感
- 関節痛
B副症状
- 咽頭痛
- 微熱
- 下痢・腹痛、便秘
- 羞明、一過性の暗点
- 集中力・思考力の低下、健忘
- 興奮、精神不安定、不眠
- 皮膚のかゆみ、感覚異常
- 月経過多などの異常
C検査所見
- 副交感神経刺激型の瞳孔異常
- 視覚空間周波数特性の明らかな閾値低下
- 眼球運動の典型的な異常
- SPECTによる大脳皮質の明らかな機能低下
- 誘発試験の陽性反応
診断
主症状2項目+副症状4項目
主症状1項目+副症状6項目+検査所見2項目
●原因物質(場所)を避けると症状が軽くなる。
●原因化学物質が高濃度に検出される。
なども診断上重要です。
対策(予防策)
個人個人の生活環境・職場環境を分析して細かく指導します。
できれば、建てる前、引っ越す前にご相談ください。
1:新築、リフォームする場合には有害な化学物質を含まない(あるいはできるだけ少ない)建材を使うように業者に確認しましょう。
建材の選択では塗料、接着剤、内装、仕上げ材に特に注意しましょう。
しかし、一般の建築士、工務店のこの問題に対する意識はまだかなり低いので、自分でもよく調べ、よく理解している業者を探すのが大切です。
2:新築やリフォームの後、接着剤や塗料が十分に乾燥しきらない状態で入居することは危険です。
完成から入居までの期間は余裕を持ち、引き渡し直後のまだ接着剤や塗料が乾ききっていない時の入居は避けてください。
こまめに換気して高濃度のVOCを十分排出させてから入居しましょう。
換気は自分でするのはやめて業者などに依頼するのが無難です。換気に行ったがためにCSを発症した患者さんも少なくありません。
できれば入居までに一夏越すのがよいでしょう。
入居は夏の気温と湿度が高い時は避けるのが良いでしょう。
3:換気は、窓の開放による自然換気を積極的に取り入れましょう。
窓を開けるとともに室内のドア、ふすまも開放して通風を確保するとより効果的です。
気密性の高い住宅では、窓を開けるだけでなく、必要に応じて扇風機や換気扇による換気を行いましょう。
化学物質過敏症の治療の前に
1:家・部屋の環境整備…『オアシス作戦』
CS治療で最も大切なことは、安全・安心な部屋を確保することから始まります。
これを『オアシス作戦』と呼んでいます。それには、居間あるいは寝室が望ましいでしょう。
オアシスには、板の間(国産無垢の木・ワックス無し)が望ましい。
日当たりの良い南向きの部屋が望ましい。
風通しが良い、周囲から汚染物質が流れて来ない部屋が望ましい。
押し入れはないほうが良い(収納スペースにはベニヤが多いため目張りするしかない)。
古い部屋が望ましい。
一戸建てでは1階より2階が望ましい(1階ではシロアリ駆除剤の影響が濃い)。
マンションでは1階は避けたい(カビと湿気が多い)。
この部屋をオアシスとします。
まず、全てのものを部屋から放り出します。カーテンも外します。電灯も外します。家具も何もかも出します。その状態にして深呼吸してみてください。
心から深く息が吸い込めるか確かめてください。
もし深呼吸しにくかったり、体調がよくならないようなら、この状態で既に問題があると言うことです。
他の部屋を試してみるか、この部屋を何とか居心地の良い部屋にするしかありません(最悪、引っ越しも必要となります。実際は難しいですが…)。
和紙やポリエチレンシート・アルミシート・活性炭シート・杉炭紙・キルト・ラグなどを使って、VOCを発生する床・壁・天井を覆うようにします。
場合によっては、壁紙を上から貼る(今あるものをめくるのは危険なことが多い)、患者さんの反応しない安全なテラコッタ・広葉樹などを使って床を張り替えます。
とりあえず身一つなら大丈夫という部屋を確保します。
その上で、寝具(オーガニックコットン)などを一つひとつ安全を確かめながら持ち込むようにすると良いでしょう。